#7 地域・先輩に応援された経験をつないでいく。ライフステージに合わせて活躍できる、勝沼のぶどう農家【in 山梨】

お話を聞いた人

三森かおり(みつもり・かおり)さん
三森かおり(みつもり・かおり)さん



勝沼のぶどう農家出身。大学卒業後、保育士として働いた後、同じ地域出身のぶどう農家の夫と結婚して家業を継ぎ「有限会社ぶどうばたけ」を設立。法人として学校の食育体験受け入れやブドウ狩りツアー、後継者育成など多岐にわたる事業を行う。また個人としても講演活動や国・県の審議員を務めるなど精力的に活動している

女性が働きやすい環境をつくろうと思ったきっかけは、どのようなことでしたか?

私は農業が大好きで、縁あって勝沼で農業の会社を起こしました。実家の母の姿勢がすばらしく、農業従事者としての誇りを持つことができた一方で、働く環境については厳しい面があると感じていました。
自分も子育てなどを経験し、育児との両立は簡単ではなかったので、まずは個人の成長や環境に配慮することが会社の成長に繋がると考えており、今のような取り組みを進めています。

「令和3年度 女性の就農環境改善緊急対策事業」ではどのような取り組みを実施していましたか?

「環境整備」「グループ活動」の2部門に採択されました。
環境整備では更衣室の新設(ロッカー、シューズボックスなども整備)、グループ活動ではドローン研修会の開催(3回)を行いました。
ドローンを使った栽培管理や農薬散布などは力仕事が減らせることもあり、女性に積極的に習得してほしい技術です。しかし通常のドローン講習会は高額なため、多くのスタッフに習得してもらえるよう、特別にカリキュラムを組んでもらいました。

ドローン講習会の様子

ドローンは女性農業者にとってメリットが大きいのですね。機械を扱う仕事となると男性が多く行うイメージを持ってしまいがちですが、講習会などの機会があると身近に感じられて取り入れやすそうです。

環境改善の取り組みへの従業員の皆さんの反応、よかったこと、まだ課題だと感じることがあれば教えてください。

更衣室を新設したことで、鍵もかけられるので安心して使ってもらえるスペースになりました。そのため、経営側も安心して人を受け入れられるようになりました。
 
最近入社した方は現在電車通勤ということもあり、着替えや私物なども置いてもらい、更衣室をしっかり活用してもらっています。他社の現場では更衣室などの整備が不十分なところもあり、ここでは快適に働けていると感謝されています。
 
一方、以前から勤務されている方は、着替えについては活用していますが、物の保管は自身の車などの方が落ち着くようです。

新設した、鍵付きロッカー設置済の更衣室
女性が働きやすい環境について、具体的にどのような環境をつくられているのか教えてください。

就学前のお子さんがいる家庭の方は、子どもとの時間をしっかり取れるように、また介護などの事情がある場合は家族の事情を優先できるような形を整えています。家庭の事情との兼ね合いは自分自身が経験してきたことでもありますし、一旦仕事を辞めてしまうと再度キャリアを積むことが難しい場合もあるので、働きたいというニーズがあれば、短時間でも働いてもらえるようできる限り柔軟に対応しています。
 
農業はそんなにかっちりしたものでなくても良いと思っていて、それぞれが活躍できる農業の現場で自己実現をしてもらえたら嬉しいです。
 
これまで当社では4名の女性社員を雇用し、ステップアップに向けた支援をしました。地域で農業塾を立ち上げたり、農家の方と結婚して農業を続けたりと、皆さんそれぞれの形で活躍しています。

「令和3年度 女性の就農環境改善緊急対策事業」のドローン研修の様子

女性のキャリアは子育てだけでなく、介護など含めた家族の事情に大きく左右されがちですよね。「家庭を優先しつつも仕事のキャリアを中断したくない」というニーズにも「独立に向けてしっかり経験を積みたい」というニーズにも柔軟に対応しておられて、三森さんの懐の広さを感じました。

どのような思いで現在のご自身の事業をすすめられているのか、きっかけや理念、思いなどを教えてください。また、農業界に対して「もっとこういう農業界にしたい」という思いがありましたら、教えてください。

私自身は、その地域では大きな農地を持つ農家の姉弟として育ちました。当時の小中学校の同級生は誰も農業を継いでいなかったので、少なからず危機感を持っていました。
 
農業の持つ環境維持・土地の保全・人の成長・人を作る産業として、子どものうちから農業の素晴らしさを伝えていき、農業者がもっと誇りを持てる産業にしたいと考えています。

真冬のぶどうばたけの風景。木々の様子が、季節の移り変わりを知らせてくれる
今後、ご自身の農場や会社をどのようにしていきたいか、ビジョンがあれば教えてください。

会社としてはこれまで同様、経験を積む機会が欲しい方はできる限り受け入れて応援していきたいと思っています。自身もこれまでの活動を応援してきてくれた方がたくさんいて、それが自身のモチベーションにも繋がったので、まずはぶどうばたけで自分らしく活躍してもらいたい、それから独立などご自身のフィールドで頑張ってもらいたいと思います。
 
また、地域としての取り組みも大切だと思っています。山梨は都市部に近く、観光などで足を運んでもらいやすい一方、年間を通して人に来てもらう仕組みが不足しており、都市部の方と繋がるような活動を進めていきたいと考えています。

毎年多くの観光客が「ぶどうばたけ」のぶどう狩りに訪れる
これから農業をキャリアの選択肢として選ばれる方へ、メッセージをお願いします!

今の時代、男性だから、女性だからではなく、志のある方が自己実現をできる環境にあると思います。農業は日々積み重ねていかないといけないことが多く簡単なことではありませんが、志を曲げないで、ご自身のできる範囲で成長を続けていくと、地域でも受け入れていただく事ができるので、自分の目指している姿をきっと実現できると思います。
 
また、困った時には周りの方に相談できる環境を作ることも大事だと思います。頑張ってください!

ミニコラムMini Column

人と同じことはおもしろくない!三森さんのパワフルな活動の軌跡

店頭での販売や、オンラインショップにも早くから取り組んでいる
「三森さんは、本業の他にも精力的に活動をされていると伺いましたが、どのようなことに取り組んでこられましたか?」

「30年くらい農業に携わる中で、いろんな活動に関わりました。最初は地域のママさんバレーボールから始まり、地域と関わる中で声をかけていただき県内や国が主催する勉強会などに参加しました。20代・農家の嫁という枠で男女共同参画の取組や、農水省主催の女性の会、女性リーダー塾(1期生)にも参加しました。」

「まさに女性活躍の先駆けですね!」

「人と同じことはあまり好きじゃない、という気持ちが根底にありますね。私自身は農業経営にも関わったり、女性ならではの意見を発信していきたかったのですが、周囲で同じような考えを持っている人が少なかったので、地域外さらに全国へと活動を広げていくことで目指したい方向を見つけることができました。後継者問題にも早くから関心を持っていて、現場での経験を積めるよう研修生を受け入れて独立できるようサポートしたり、地域外から人に来てもらう仕組みを作ったり、ワインアドバイザー他さまざまな資格取得にも取り組んできました。その他、耕作放棄地の問題にも関わっています。」

「すばらしいです…。大変なこともあるかと思いますが、三森さんが活動を続けられるモチベーションの源は何ですか。」

「自分たちがつらい、大変と思っていたら絶対に伝わりますよね。楽しんでやりたいですし、自分の人生、後悔したくない!ですよね。人は人からしか学べないので、機会がほしい方にはできる範囲で同じ時間を過ごしていただけるよう、取り組みを続けています。」

私たちの「農場なんでも自慢」Proud of the farm

一面のぶどう畑。勝沼は日本のコートダジュールと呼ばれるくらい、特に自社のある菱山地区はぶどう畑が一面に広がっています。まさに扇状地を利用したぶどうに最適の地域になり、江戸時代から栽培が始まっています。標高400mから600mを超える畑の管理では、甲府盆地が一望でき、季節によって風景が変わることがとても素敵です。

編集後記

30年近く農業を続けてこられた三森さんだからこそのお話をたくさん聞かせていただきました。これまで自分には「子育てとの両立」の先にある、介護を含めた家族状況の変化を具体的にイメージできていなかったので、長期的なキャリアを考えるきっかけになりました。農業には工夫次第で多様な働き方を受け入れられる、と感じることができました。

基本情報

グループ名・事業者名
有限会社ぶどうばたけ
所在地
山梨県甲州市勝沼町
URL
https://budoubatake.net/
https://www.budoubatake.co.jp/
活動概要・事業内容
【主な事業】生食用ぶどうの生産(5.5ha) 【品目】果樹(ぶどう)
設立年
2006年4月26日
メンバー数・社員数
5名