#2 農業を仕事にすることは、「ありがとう」の循環のなかに入ること。【in 広島】

お話を聞いた人

田邊圭一郎(たなべ・けいいちろう)さん
田邊圭一郎(たなべ・けいいちろう)さん

代表取締役

広島県で、水菜・ルッコラなど年間を通して10数品目の葉物野菜を栽培する田邊農園の代表。2000年に大学卒業後、広島・長野・埼玉の農園で勤務したのち、2006年に独立。生産物は業種・地域問わず、東京の飲食店、北海道の生協や、関西のカット野菜工場、広島のスーパーなどに出荷している。

女性が働きやすい環境をつくろうと思ったきっかけは、どのようなことでしたか?

家計や家事の負担を抱えながら、農業という、決して楽ではなく異業種に比べれば不安定な仕事を続けて行くのは簡単なことではありません。
会社にとっても、熱心に働いてくれるスタッフが退職することはとても大きな痛手です。
そんな中でお互い、家計のこと経営のことで頭がいっぱいになり、つい足りないことに目が行きがちですが、それだけではつまらない人生になってしまいます。
人生の毎日毎日の時間を少しでも心地よく充実したものにするために、働く環境はとても大切だと思うようになりました。よい環境でのよい仕事の結果として、家庭や会社の営みもうまくいくものだと考えるようになりました。

「R3女性の農業活躍推進事業」ではどのような取り組みを実施していましたか?

 3ヶ所にプレハブの休憩スペースと女性用トイレを設置しました。

環境改善の取り組みへの従業員のみなさんの反応、よかったこと、まだ課題だと感じることがあれば教えてください。

直接は聞けていませんが、スタッフの頑張りに応えて環境を良くしようという、会社としての姿勢だけは少し伝わったかなと期待しています。
設備はきれいなものができましたが、日々の業務の流れ上、それを十分に活用できる時間が限られています。業務上の段取りや動線といったソフト面での環境整備にまだ課題があると感じています。

女性が働きやすい環境について、具体的にどのような環境をつくられているのか教えてください。

トイレ・休憩室の整備の他、子育て中でも働きやすいように時短勤務可としたり、仕事量の季節変動を極力なくし、子育てや体力面で制限のある女性でも、比較的安定した収入を得られるような業務の組み立てをしています。

直接感謝を伝えることも大事だけど、パートさんたち同士がのびのび雑談できたり、その延長で仕事の工夫などを話せるような時間や場を作ることが大事、というお話もありました。程よい距離感を保ちながらスタッフの皆さんを見守っておられる様子が伝わってきました。

どのような思いで現在のご自身の事業をすすめられているのか、きっかけや理念などを教えてください。また、農業界に対して「もっとこういう農業界にしたい」という思いがありましたら、教えてください。

当初は田舎の青空の下で働きたいという動機でしたが、いまは食と農の循環を通して人々を幸せにしたいという思いで事業をしています。
農園で働く女性スタッフは、スーパーで買い物をして家庭で料理をする消費者でもあります。そのスタッフが日々汗を流して送り出す商品が、同じ消費者である他の誰かの笑顔になって、「ありがとう」が返ってくる。その気持ちの循環と経済の循環の中で、関わる人みんなが幸せになるように、あらゆることをデザインするのが経営者としての私の仕事だと考えています。

気持ちの循環と経済の循環、私も生活の中で意識する瞬間が多くあります。とても素敵な想いだと感じました!

今後、ご自身の農場や会社をどのようにしていきたいか、ビジョンがあれば教えてください。

関わる全ての人が笑顔でいられるように、強くて優しい会社にしていきたいです。
その結果として、食と農の好循環、人と自然の調和の一助になれたらと願っています。

これから農業をキャリアの選択肢として選ばれる方へ、メッセージをお願いします!

基本的に農業は、タネをまいて収穫して出荷するという、シンプルで地味な仕事。
ですが、そこには極めて幅広い領域の知識や知恵や技術が関わっています。
生物、化学、物理、料理、小売、飲食、IT、コミュニケーション、ヴィジュアルデザイン、経理、マーケティングetc… 挙げればきりがありません。
たくさんの農園がありますが、これらのどこに強み弱みがあって何に重点を置いているかによって、求める能力や人材も多種多様です。
また、商品を提供する相手も、農業の場合、全人類が見込み客です。
老若男女や国籍を問わず、お金持ちもそうでない人も、元気な人もそうでない人も、あなたも私もみんなも、必ず食べますから。
つまり、農業をしていると、どんな人にもキラリと活躍する場があるし、何を見ても仕事のヒントになり得るし、誰と会っても活かせる学びを得ることができるし、どこへ行っても美味しい食材で人を喜ばせることができます。こんな美味しい仕事、私は農業以外で知りません。あなたもやってみてください。

ミニコラムMini Column

大学休学中に出会った農業の恩師

「大学の時に1年休学をして『自分探しの旅』に出ました。田舎に住みたい。やってみて違ったら、また別のことを考えれば良いやと思っていましたが、結果的に広島のネギ農家で1年間働きました。仕事も楽しかったのですが、野菜を育てるだけではなくて、外で働いたり、ブラジルの方がいたり、人がよかったです。この経験がきっかけで農業の道に進むことになりました。

その後広島市の支援を受けて農業を学び、独立する際面接を受けました。

審査員は行政の人たちが多かったのですが、地元の農家の人もいました。その中に休学中に研修させていただいたネギ農家の社長がいて、『田邊はこんなんだけど、ようやるけ』と言ってもらえたことがとても嬉しかったです。面接はあまり得意ではなかったので、恩師の後押しがあったからこそ今までこられたと思っています。」

「恩師との信頼関係とご縁が素敵です!」

 

私たちの「農場なんでも自慢」Proud of the farm

桜や蛍や翡翠(カワセミ)が舞う豊かな自然環境

編集後記

大学では国際学部で学ばれた田邊さん。なのにどうして農業をやっているの?と聞かれることもあるけれど、「農業ほどグローバルな環境はないと思う」と答えているとのこと。田邊さんのメッセージを伺って、確かに!と深く頷きました。

スタッフの皆さんを信頼して、一歩離れて見守っておられる姿が印象的でした。

基本情報

グループ名・事業者名
田邊農園株式会社
所在地
広島県広島市安佐北区白木町
URL
https://www.tanabe-farm.com/
活動概要・事業内容
【主な事業】生産 【品目】水菜・ルッコラなど、葉物野菜10数品目
設立年
2018年(創業は2006年)
メンバー数・社員数
社員数11名(うちパート9名)