[column5]農家さんに手渡された野菜で、土の豊かさを思い出せる料理を作ること

執筆者プロフィール

冷水希三子ひやみず・きみこ

料理にまつわるレシピやコーディネートを、素材を大切にしながら提案しています。著書や料理教室も実施。

インスタグム  https://www.instagram.com/kincocyan/

ほぼキッチンに毎日立ち、何かしら作っては食べ、外に出ては食材を探して買い、美味しいと聞いては取り寄せてみたりする日々。

料理に携わるようになった若い頃は、スーパーに並んでいる野菜がどこから来て、誰の手によって、どんな思いで作られているのかということを真剣に考えずに、目の前にある野菜の中で、その時に必要なものを手に取り、料理をしていました。

いつ頃からでしょうか。体に安全な食材を使い、安心して人に食べてもらいたいと思うようになり、土を守ることは地球の環境にとても深く関わっているのだということに興味を持ち始めました。

だからと言って、すぐには何から始めればいいかわからず、最初は丁寧に育てられた野菜を食べた時に感じる、エネルギーのある味わいや、その野菜が持っている雰囲気そのもの、自然が作り出す美しさや強さを、「かっこいい」と感じるところからのスタートだったように思います。 スーパーに並んでいる野菜は、「綺麗な形」や「綺麗な見た目」を、人の価値観で定義付けをして選ばれてきたものです。その野菜を見て「自然」を感じたことがなかったので、初めて農家を訪れたとき、「選ばれる」前の力強い野菜を見て、本当にびっくりしたのです。

こんな野菜で料理をしたい!と思ううちに、少しずつ農家さんに会う機会も増えていきました。地方に行ってイベントなどをする時も、その土地の農家さんを紹介していただき、農地に会いに行って野菜を分けてもらいます。

どの農地に行っても思うことなのですが、農家さんの性格が、その土地や野菜に出ているのです。やはり気持ちでものは変わるのだなと、微笑ましいような気持ちになります。

野菜と農地と人が繋がっていけるこの環境に、今は感謝しています。

実際に農地を訪れて話を聞き、その場で食べさせていただき、その感動を胸に持ちながら自宅に帰ります。すると、家で手に取ったときに野菜に話しかけていたり、作っている方の顔を思い浮かべては心の中で勝手に話しかけてみたりと、いつもの調理の時間が豊かになっていることに気づくのです。

その豊かさが、できるだけ食べてもらう方々にも伝わるように料理したいといつも思っているのに、その力強く美味しい野菜はシンプルにいただくのが一番美味しいのだと頭でわかっていながら、それでもその野菜の持ち味を消してしまう時がたまにあります。そんな時が一番、野菜にも、農家さんにも、食べてくれる方にも、大いに申し訳なくなります。大切なお子さんを預かったような気分です。

そんなとき、農業は頭も体も使う、大変なお仕事だと頭ではわかっていても、ベランダでハーブを育てているくらいの私には、本当の意味での農の大変さや、その忙しさ、そして自然との戦いを理解できているとは言えないのだなと、農家さんや食べてくれる方々の前では、恥ずかしい気持ちにもなります。

でも、ちっぽけな使命感とまではいきませんが、農家さんに手渡された野菜をいかに美味しいと思ってもらえるか、そして畑に行ったことはなくても、食べてもらったときに土を思い出してもらえるか、といったことを考えながら料理をするようにしています。

農家の方からは、農業が自然環境とも密接しているという話をたくさん聞かせてもらいます。日々の暮らしの中では、自分たち人間は地球上のたった一種類の動物に過ぎないということを、忘れてしまいがちです。私にとって農家の方は、このシンプルな事実をいつも教えてもらえる、一番身近な存在でもあります。農と私を繋ぐものは人であり、そして地球でもあるのだなと、気付かされます。

地球と対話しながら農業をされている方々との会話やお話が、自分が生活していく上での考えや、もちろん体や心の肥やしになっていることを感じています。

まだまだ、自分の中でどう変わっていくかはわかりません。でも、どんなときもしっかりと自分で見て、経験していくことが大切なのだと、農業に携わる方々に教えてもらっているように思います。

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