[story4] 自然と共存する農業で、私の本当の人生は始まった。【in 兵庫】

浅岡 佳菜未あさおか・かなみ

東京のWeb制作会社でリモートによる経理・事務の仕事をしつつ、仕事外の時間で農業を営む兼業農家。東京の吉祥寺から兵庫県神崎郡福崎町へと移住し、お米と野菜を無農薬、有機栽培、自然農法で育てる「人土菜(ひとつちな)」を始める。自然と動物をこよなく愛し、農業スタイルは菅笠やもんぺを用いた古き良き自然共生の形をとっている。自然豊かな環境でこだわり抜いた農法で育ったお米や野菜は、Web上のECサイトから購入可能。

農業を始めるのはとてもハードルの高いことだと感じている方もいるかもしれません。たしかに、知識の無いまま一からスタートしようとすると、ハードルを感じることもあります。しかし、“兼業”という形で農地を借り、先達の知恵を借りながら協働することで、そのハードルはぐんと低くなります。

「私の人生は、ここから始まったんです」

本業の傍ら、自身の心に従って見知らぬ土地へ飛び出し、ほとんど未経験だったのにもかかわらず、“二足のわらじ”を履く兼業農家として「人土菜(ひとつちな)」をスタートした浅岡 佳菜未さん。これまでの半生を振り返りながら、農業の楽しさや関わる中で見つけた大事なものについて、お話をうかがいました。

農業を通して、自分の人生をリデザインする。

兵庫県神崎郡福崎町。「日本民俗学の祖」として知られる柳田國男の生家があり、自然豊かなこのまちで、兼業農家として「人土菜」を営んでいる浅岡さん。「専業農家ではない私が『農家です!』と声を大にして言ってしまって良いのでしょうか……?」と、控えめに言いながら、この地で農業を始めたいきさつについて話してくれました。

「私は内向的な性格で、小さい頃から嫌なことや大変なことがあっても、周りに相談せずに一人で溜め込んじゃうタイプでした。そんな中で、人よりも自然や動物と深く関わるようになり、将来はそうした関係のお仕事ができればいいなとぼんやりと思うようになったんです」。

大きな転機が訪れたのは20代のころ。20代前半の頃に心身を患い、さらには20代後半で、日に日に体力が落ちていく病にかかります。日々増えていく薬の量を前にして、自分自身の身体のことを深く考えるようになりました。

「病状を抑えるのは薬でできるのですが、そもそもなぜ病気になるのだろう?と気になって。そこから東洋医学に興味を持ち、勉強していく中で『身体は食べているものでできている』のだとはっきりと思ったんです。これは農業に興味を持ち始めたきっかけとなる、とても大きな経験でした」。

その後、浅岡さんは縁もゆかりも無かった兵庫県神崎郡福崎町へと移住し、兼業農家として農業を始めることになりました。

「実は今お仕事をしている会社の同僚に、福崎町で兼業農家として農業をされている方がいたんです。それを初めて知った時に『これだ!』と確信し、『一度見学に行かせてください!』と連絡して飛び込みました。元来引っ込み思案なタイプなので、突発的に行動するなんて経験はそれまでなかったのですが、この時だけは別でしたね」。

一念発起して飛び込んだ結果、「農業を楽しみ尽くすには、短期間では足りない!」と、一年経たずに移住を決意。以前から田舎暮らしに憧れていたこともあり、「こんなに広くて、夕焼けがきれいな空のあるまちで暮らせると思うと、わくわくが抑えきれなかった」と話します。

「困難の多い半生でしたが、今のスタイルで暮らすことを決めたとき、ここから自分の人生が始まるんだ、明るい未来が待っているんだ、と思えたんです」。

自然に近い形で、心も身体も自給自足の生活を目指して。

東京の吉祥寺から兵庫県の福崎町に移住し、手探りで農業を始めた浅岡さん。新しい挑戦の道中はというのは決して楽しいことばかりではなく、過程で多くの困難もあったはず。しかし、そんな先入観を吹き飛ばすように、浅岡さんは柔和な笑顔でこう話します。

「それを聞かれると困っちゃうんですけど。楽しいことばかりだったんです(笑)。強いて言えば、周りは農薬栽培をされている方が多いので、自然農法の知見を持っている人が周りに少なかったことでしょうか。また、昔ながらの道具にこだわって農業をしたくても、道具が売っていなかったことも。あ、あとは早寝早起きの習慣がなかったので、身体が慣れるまでが大変でした。でも、本当にそれくらいなんです。」

自前の菅笠(すげがさ)を大事そうに見つめながら笑顔で話す浅岡さん。でもその目に、意志の強さを感じました。

毎朝5時に起床し、本業の仕事前に2時間、夕方は仕事終わりに2時間、そして週末のほとんどを農作業に費やすというハードスケジュールも、「農業は生活の一部で、楽しみながらやっているから“仕事”という感覚は薄いかもしれません。プライベートとは分けられない。」と、本当に心から農業を楽しんでいる様子が伝わってきます。

「毎日が挑戦の連続で、手探りしながら進めています。周りの農家さんにアドバイスをいただいたり、先輩と相談したりしながら、なんとかここまでやって来られました。

今は有機肥料さえも用いない“自然農法”に挑戦しているんですが、周りの誰も知見を持っていないから本当に大変(笑)。でも、InstagramやYouTubeなどで自然農法に挑戦されている方の動画を見ながら、これまで知らなかったことを少しずつ知ることができるという喜びにあふれた毎日を送っています」。

「植物は自然の中で自ら成長し実をつける力を持っている。それを人間がどうこうしようとするのはおこがましい」との考えから、人土菜ではほとんど手を加えず、文字通り自然に近い状態で作物を栽培してきました。一度に多くの量を育てることはなかなかできないそうですが、それでも「楽しいし、もっといろいろ試してみたい」と前向きに話します。

「自然に優しく、循環を意識した取り組みをしたい。古来よりある自然と私たち関係、持ちつ持たれつの関係を人土菜では目指しています」。

小さな一歩からでも、踏み出してみてほしい。

作物への干渉を極力減らし、植物本来が持っている成長力を最大限に引き出して行う自然農法。浅岡さん自身の過去の経験から、身体にやさしいものをつくりたいと心を込めて育てた人土菜のお米は、インターネットのECサイトから購入できます。

炊き上がりはふっくらつやつや。口に運ぶとなめらかな舌触りと強い弾力、そしてたっぷりの甘みが広がるお米から、福崎町の大自然が生んだ恵と、浅岡さんのやさしい思いを感じられるはずです。

最後に浅岡さんから農業に興味を持つ人に向けてこんなメッセージをいただきました。

「農業って、何かすべてを賭けて取り組まないといけない!といった印象を持たれがちじゃないですか。でも、実際はそんなことないです。私は兼業農家として農業を営んでいますが、それでも十分楽しい。

今、農業に興味を持たれている方は、小さくからでも始められるので、まずはぜひその魅力に触れていただきたいなと思います。

私の話を通して、少しでもそうした人の後押しができたら嬉しいですね」。

お気に入りグッズ

菅笠(すげがさ)と綿のもんぺ。菅笠は、かぶっていても、頭に密着しなくてとても涼しいです。 綿のもんぺは、とにかく動きやすくて、空気を含むから暖かいです。この辺りだと、おばあちゃんが普通に履くのでホームセンターなんかにもたくさん売っています(笑)。両方とも昔からある道具ですが、今使ってみてもとても理に適っているなと感心します。
農園情報

人土菜(ひとつちな)

https://www.instagram.com/hitotsuchina/

https://hitotsuchina.stores.jp/

今の職域:

取材・文  中野広夢

写真  東 秀亮(CreateView)

編集  虫明麻衣

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