はじまりは義父のコシヒカリ
毎年秋になると、新潟の義父の育てた新米が届きます。
ピカピカに炊き上がったごはんをいただくと、「ふぁあ、なんておいしいのっ!」と、つい声をあげてしまいます。お米は年中美味しいですが、秋の新米の瑞々しさは格別です。
夫のシライジュンイチとともに、「ごはん同盟」というフードユニットを結成したのは、義父の育てたコシヒカリがきっかけでした。
義父は新潟県長岡市で米作りをしています。新潟のお米がおいしいのは有名ですが、義父の育てるコシヒカリは格別。そんな義父の育てるお米を多くの方に知ってもらおうと、ごはん食べ放題のイベントを開催したのが、今から12年前。それがごはん同盟のはじまりです。
当時は、世の中でフードイベントが盛り上がりはじめた頃。でも、ごはんが主役のものはほとんどなく、「果たしてごはんで人は集まるのか」と心配しましたが、蓋を開けたら、イベントは満員御礼。およそ30名で6升あまりのごはんを食べ切るという、とても楽しいイベントになりました。
そのイベントでは私たちはひたすらごはんを炊き、参加者のみなさんはご飯茶碗を片手に目を輝かせて炊きたてのごはんを食べる…。その姿を見て、ああ、ごはんってすごい力を持っていると実感したんです。
「みんな違ってみんないい」、どっぷりとお米沼にハマる
そんなごはんのイベントを続けるうちに、日本全国のお米が気になり始めました。新潟県出身の私はコシヒカリ至上主義になっていて、他県のお米には全く興味を持っていなかったのです。
ところが、ごはん同盟の活動をする中で、色々なお米のお話を聞く機会が増えました。
そこで、さまざまな品種のお米を取り寄せて炊き比べをしてみたところ、コシヒカリとの味わいの違いに衝撃を受けました。粒の大きさや香り、甘みや粘りなど、どれひとつ同じものはなく、個性豊かなものばかり。まさに「みんな違ってみんないい」です。
調べてみると、日本のお米の品種の数は、国に品種登録されているもので約900品種。そのうち、主食のごはん用として育てられるうるち米は、300品種以上あるのだとか。しかも、新しいお米も開発され、品種は毎年増え続けています。
ごはんのおいしさと奥深さに気づいてしまった私は、どっぷりと「お米沼」にハマっていきました。
美味しいごはんは日々の生活を豊かにする
ごはんの仕事をしていると、「日本一美味しいお米はなんですか?」と聞かれることがよくあります。でも、この質問に正解はありません。「お米の味わいには好みがあるから」とかそういうことではなく、ごはんはお米がどんなに素晴らしい出来でも、正しく炊く、そして最高のタイミングで頂くという状況がそろわなければ美味しいごはんにはならないんです。ごはんの美味しさは品種だけでなく、炊く人の力にもかかっているんです。
そこで、「炊く力の大切さ」に気付いた私たちは炊飯教室に力を入れ始めました。
ごはんの炊き方をしっかり習った経験のある人は意外と少なく、見様見真似で、もしくは自己流で炊いてるという方がほとんどです。
「自分が炊いたごはんはなんだかおいしくなくて、その理由がわからない」という方のお話をじっくり聞くと、お米の品種や炊飯道具ではなく、お米の保存方法や研ぎ方、炊き方のどこかに問題があったり…。
ごはんは毎日食べるものだからこそ、おいしく炊けると生活の質がグッと向上します。炊飯教室では、炊飯にまつわるちょっとしたコツをお伝えして、日々の生活を豊かにするためのきっかけづくりをしたいと思っています。
「もう一杯のごはんを食べよう」
最近は、全国各地でお米にまつわる講演会に登壇させていただく機会が増えました。そこでいつも話題になるのが「米離れ」や「米余り」の問題。お米の消費量は年々減少傾向にあり、昨今のコロナ禍で外食需要も減って、問題はさらに深刻です。さらに、「米余り」がこのまま続けば、米作りをやめてしまう米農家さんが増え、結果的に「米不足」という状況を招くかもしれません。
「米離れ」の原因は色々ありますが、そのひとつとして、「ごはんを炊くのが面倒だ」という声をききます。電気炊飯器、無洗米、パックごはんなど、手間をかけずに美味しいごはんが手に入る環境があるにも関わらず、「ごはんは、手間をかけて、おいしく炊かなければならない」と力むがゆえに、ごはんを遠ざけている感じを受けます。
ちなみに無洗米は研ぎ方のブレがなくなるのでごはんを安定的においしく炊くことができます。研がないので使用する水も少なく、お米の糠層も取り除かれているため、劣化しにくいというメリットも。パックごはんは種類もおいしさも驚くほど向上していますし、電気炊飯器の進化も目覚ましい。
せっかく、こんなに気軽に美味しいごはんが頂ける環境が整っているのに、ごはんを食べないのは非常にもったいない!「楽すること=悪」と思う人もいるようですが、そんな罪悪感はおいしいごはんの前では不要です。
昨年(2021年)余ったお米は、約40万トン。これは、日本国民ひとりひとりが、ごはんを食べる機会を週にもう1回増やせば解消される量だそうです。ごはんをおいしく炊ける人が増えたら、ごはんが食卓に登場する機会も増えて、米余りの問題も徐々に軽減していくかもしれない。そんなことを考えながら、「ごはんをもう一杯食べましょう!」と、お会いした方々にはお伝えするようにしています。
毎日の生活では、お米があることが当たり前すぎて、そのありがたさに気づくことはなかなか難しいと思います。でも、私たちが日々おいしくごはんをいただけるのは、米農家さんや流通や販売に携わる方々のおかげということは忘れてはいけないのだと思っています。
これからもごはんをおいしくいただける日常を続けるために、ごはん専門の料理研究家として、ごはんを炊く人、食べる人を増やし、ごはんの魅力を伝えていきたいと思っています。