[column1]自然の力と農家さんの手助けによってできた野菜を、無駄なく食べるために

執筆者プロフィール

山口祐加やまぐち ゆか

自炊料理家®︎。1992年生まれ、東京都出身。出版社、食のPR会社を経てフリーランスに。料理初心者に向けた料理レッスン「自炊レッスン」や執筆業、動画配信などを通し、自炊する人を増やすために幅広く活躍中。著書に『楽しくはじめて、続けるための 自炊入門』『ちょっとのコツでけっこう幸せになる自炊生活』『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』など。Voicyにて「山口祐加の食べラジオ」を配信中。
生まれ育った東京から海辺の街へ引っ越し、小さな畑を始めた時の話。オーガニックの貸し畑を利用し、9㎡の畑で一年間野菜を育てた。

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●山口祐加さんにご登壇いただきました●
【1/17(火)「me&Agriトークイベント」】わたしらしい“農ある生き方”をつくる、キャリアのヒント ※イベントは終了いたしました。

畑を始めた理由は、料理家として野菜がどのように育つのかを知りたかったことと、純粋に土を触ることに興味があったからだ。

土田凌撮影

雑草で荒れ果てていた場所を、友達と一緒にへとへとになりながら整備して畝を作り、苗や種を植えた。水やりに通って、一週間ほど経ったある日、土から双葉がひょこっと顔を見せてくれたのを見て、「かわいい!」と思わず声が出るほど胸がいっぱいになった。

人が場所を整えておけば、あとは光、空気、土、水の力で植物が育っていくという当たり前の事実に改めて気づき、植物の生命力に感動した。また、うまく育ってくれる野菜がある一方で、芽が出てこなかったり、出てきたとしても動物に食べられたりと、作物として手に入るまでの道がまっすぐではないことを思い知った。

野菜を育てる中で、特に印象に残っていることがある。

それは、「きっとこの野菜はこれくらいの時間で育つだろう」と予想しても、その5倍成長が早かったり、逆にすごくのんびりだったりすることだ。

きゅうりは収穫のタイミングを逃すと、1日経っただけで食べられないほどに大きくなってしまう。カリフラワーはものすごく成長がゆっくりで、何度も確認しては「まだ……?」とじりじりした。

けれど、「これくらいで大きくなるだろう」と考えること自体が、締め切りを抱えて生きる社会に染まっているということなのかもしれない。

時間通りに来る電車、指定した日時に届けてくれる宅配便、不自由ない暮らし…。でも野菜にはそんなことは関係ない。そもそも、自然の世界には時間の概念がない。何日までに出荷できるようになってね、という資本主義的なお願いは、野菜には通じない。

枯れそうだったら水をあげ、成長のタイミングで肥料を入れることは人の手でもできるが、やることをやったらあとは自然の力に任せるしかない。そうして自然の力によって育まれたものしか、私たちは食べられないのだ。

一方でスーパーに行くと、同じサイズと見た目をした、きれいな野菜が並んでいる。野生的な土の上で育ったとは思えないほど、ぴかぴかしている。旬の季節がいつかわからないほど、年中手に入る野菜も多い。

自分で野菜を作るようになってから、こんなにもたくさんのきれいな野菜が、毎日スーパーに並べられることがいかにすごいことなのかを思い知らされた。天候に左右されながら、野生動物とも格闘し、なんとか野菜を育てている農家さんの立場を少しだけ経験したことで、スーパーの野菜がものすごい努力があってこそ並ぶことを頭ではなく身体で理解できた。

生ゴミは乾燥させて畑に肥料として入れていた

気候変動が年々勢いを増す中で、農家さんは必死に野菜を作っているのだと想像する。あともう少しで出荷できるところに台風や大雨が続いて、一円にもならなかったなんてこともあるのだ。私だったらしばらく立ち直れない。自然相手に仕事をすることは、逞しい心がなければ続かない。野菜作りを経験したことで、食べ物を作る人たちを心から尊敬するようになった。

こうして自然の力と農家さんの手助けによってできた野菜が、当たり前のようにスーパーに並べられていて、数百円で手に入ることは、考えてみれば奇跡のようだ。これを無駄にするのはあまりにもったいない。

「フードロス防止」と聞くと、なんだか真面目に取り組まないといけない気がしてくる。でも「自然の力と農家さんの手助けによってできた野菜をできるだけおいしく食べよう」という気持ちを持って料理すれば、おのずと始末の良い料理ができると思うのだ。

例えば、私たちは料理する時に、ついクセで野菜の皮を剥いたり、しいたけの軸を捨ててしまったりしている。でも、料理をする前にどうすればこの食材をおいしく食べられるかを考え、無意識のクセに気づいてちょっと工夫するだけで、結果的にフードロスは減る。

食べることができないブロッコリーの芯の皮や玉ねぎの皮だって、まとめて冷凍しておき、鍋に入れたお湯で煮出すと「ベジブロス」という野菜の出汁がとれる。これでカレーやスープを作ると野菜の旨味がしっかりと味わえて、栄養も豊富に摂取できて、いいことずくめだ。

それから、食材の「買いすぎ」もフードロスに直結しやすい。まとめて買った方がお得に感じても、突然忙しくなって料理ができなかったり、作りすぎて味に飽きてしまったりすることもある。食材をつい余らせてしまうという人は、人参なら1本、キャベツなら1/4個から買ってみて、使い切ったらまた買って…と繰り返してみると、ロスも出ずに、実はお財布にも優しく、心も健康でいられるので試してみてほしい。

日々の料理で無駄を出さず作って食べる、という循環を回すことができると、誰に自慢するでもないけれど、自分を褒めたくなる。自然の循環の一部になれたような、充足感が味わえるから面白い。

便利で快適な現代社会に生きていると忘れがちになる「自然に生かされている事実」を、私は日々の料理を通じてスルメのように噛み締めている。

オクラの花はハイビスカスのようで美しい

●山口祐加さんにご登壇いただきました●
【1/17(火)「me&Agriトークイベント」】わたしらしい“農ある生き方”をつくる、キャリアのヒント ※イベントは終了いたしました。

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