[story2] 土地をもたない、「フリーランス農家」という生き方 【Anywhere】

小葉松真里こばまつ・まり

北海道帯広市出身。全国の繁忙期の農家を回り農業に携わりながら、農業体験や農泊の企画、農業ライターなどの活動を行う。土地と家を所有しないフリーランス農家という働き方を実践中。

●小葉松真理さんにご登壇いただきました●
【1/17(火)「me&Agriトークイベント」】わたしらしい“農ある生き方”をつくる、キャリアのヒント ※イベントは終了いたしました。

農作業のシーズン中ずっと、一か所の畑で働くー。農業に携わる人のそんな”あたりまえ”から一歩離れて、働き方の新たな選択肢を作ろうとしている女性がいます。「フリーランス農家」という肩書きで全国を飛び回る、小葉松真里さんです。

「フリーランス農家」の仕事を訪ねて

小葉松さんは年間11ヶ月、北海道から沖縄まで、さまざまな農家を繁忙期ごとに転々として過ごしています。現地のゲストハウスや農家に住み込みをして暮らす、住所を持たない「アドレスホッパー」と呼ばれる生き方です。

農泊とは何なのか、生徒たちに説明する小葉松さん。

さらに、農家のことや小葉松さん自身の働き方を発信するライターとしても活動。たくさんの農家で働いた経験を活かして、農泊やワーケーションの企画や、農業関連のイベンター、農業に関する調査事業などの仕事もしています。

この日訪れたのは、小葉松さんがコーディネーターとなって中学生と農泊の企画を考える授業です。地域の「隠れた宝」を生徒たちと考え、書き出して黒板に貼っていきます。畑に触れるだけが農家ではない。そんな新しい生き方も子どもたちに伝えていました。「農業はあくまで手段」と言い切るその先に、どんな目的があるのでしょう。

野菜づくりは、まちづくりとつながっている

小葉松さんは帯広の専門学校を卒業後、「地域に貢献する仕事がしたい」と、地元新聞社を経て、函館のまちづくり会社の立ち上げに携わりました。農業に出会ったのは、勉強のために行った農家の講演会でした。

一次産業の仕事は、手を掛けた分しっかり形となって残る。さらに食べ物を作ることは、大昔から変わらない価値がある。そんな一次産業こそ、北海道の地域を支えているー。

「まちづくりの単発的なイベントでは仕事の成果が目に見えにくい」。そんな悩みを抱えていた小葉松さんは、講演会を聞いて、農家は形あるものを作れること、野菜づくりはまちづくりにつながっていることを知り、衝撃を受けました。

「生徒を教え導くというよりも、一緒に考える姿勢を大切にしている」と小葉松さん。

その時のことを、「出会ってしまった」と楽しそうに振り返る小葉松さん。地域に貢献したい。その思いは農業によって叶えられるかもしれない。そう考え、まずは農業を経験するため、農家に住み込みで働くことにしました。

突然の転職に、親もびっくり。けれど一番驚いていたのは小葉松さん自身かもしれません。なにしろ、元々農業などやったこともなく、虫も嫌い、どちらかというと都会派だったのです。

でも、不安だった体力面はやるうちに身体が慣れて克服。虫については、「土壌改良の面でも必要不可欠な生き物。役割を知ると、嫌いではなくなった」と言います。

休み時間、校庭を走るリスを見つけた生徒たち。
農泊の内容を決めるため、住んでいる生徒達だからこそわかる町のよいところを書き出していく。

農業をやりながら栗山町の地域おこし協力隊として働き、農業との関わり方を模索しました。

新規就農を試みたけれど、当時は資金面でもハードルが高く、実現は難しかった。新規就農が難しければ、従業員として働くしかないけれど、従業員として働くやり方だと、自由度をもって自分のやりたいことをするのは難しい…。

さらに小葉松さん自身、一つのことを一か所で続けるより、複数の居場所を持ちさまざまなことをするやり方のほうが向いていると感じていました。これまで培ってきたまちづくりの企画実行やイベントのノウハウ、人脈。それらを活かしながら農業に携わることができる、自分だけのやり方を考えました。

ないなら作る、自分にあった働き方

「ないなら作ろう」と始めたのが、フリーランス農家という働き方です。繁忙期ごとに2週間〜1ヶ月ほど全国の生産地を回り、合間に個人で農業にまつわる仕事をする生活を始めました。

大変なのは、郵便物を受け取ることと、拠点の移動に時間がかかること。実家に届く郵便物は、家族にお願いしてその時いる場所に転送してもらっています。でもそれ以上に、「やりたいことや理想の暮らしが叶えられている今がうれしい」と、とびきりの笑顔で答えてくれました。

先生たちと授業内容の打ち合わせをする小葉松さん。

今では全国各地の農家が、小葉松さんにとっての「帰る場所」。旬の食べ物が送られてきたり、近況を報告しあったり。農家が新しいことを始める時、困ったら小葉松さんに相談がくる。そんな関係を築けていることが、小葉松さんの仕事のやりがいにつながっています。

「フリーランス農家」という選択肢を増やしたい

現在、フリーランス農家の活動は4年目。今後は、知り合った農家の思いを伝えるライターや、企画の仕事を増やしていきたい、そして「この働き方をもっとシェアしていきたい」と語ります。

「自分で育てた野菜でカフェを開きたい」「農家に携わる人の思いを伝えたい」、など、農業と何かを組み合わせた活動がしたいと考える人も多いのではないでしょうか。

いわゆる「半農半X」を志し、農業を手段とする人たちにとって、「フリーランス農家のようにもっと多様な選択肢があっていいと思う」と小葉松さんは語ります。

フリーランス農家として活動していくために必要なことを聞くと、「前提として、農作業が一通りできるようになることは大事」とした上で、こう答えてくれました。

今、自分の思うような生き方が実現できていなかったとしても、まずは肩書きを自分から発信すること。「こういうことをしています」と自らアピールすること。さらに、実績が少なくても尻込みせず、与えられたチャンスは臆せず掴むこと。

自らの経験を振り返りながら、小葉松さんは力強く語ります。

ただ、滞在先の農家を決めるのはなかなか難しいことではないでしょうか。小葉松さんの場合は、これまでの活動でつながりが生まれた農家から直接呼ばれ、全国を回っています。そのようなつながりのない人たちは、どのようにしたらよいでしょう。

「気になる農家に直接連絡をとってみるのもいいと思います」と小葉松さんは言います。たしかに、繁忙期にスポットで働き手がほしいのは、きっと農家も同じ。お互いの利益が合致すれば、フリーランス農家の活動は農家にとってもありがたいものになるでしょう。

働き方の選択肢を増やすことができれば、農業全体の人材不足にも、少しは貢献できるはずです。フリーランス農家として、農業をしながらいきいきと自分らしい活動をする。そんな人が増えた日本の農業は、今よりもっと元気で盛り上がっていることでしょう。

●小葉松真理さんにご登壇いただきました●
【1/17(火)「me&Agriトークイベント」】わたしらしい“農ある生き方”をつくる、キャリアのヒント ※イベントは終了いたしました。

お気に入りグッズ

軽くて、折りたためて持ち運びが便利なワークマンの帽子がお気に入りです。ウィンドブレーカーも、リーズナブルですが丈夫でお気に入りです。
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フリーランス

https://note.com/kobamatu

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取材・文  森髙まき

写真  森髙まき

編集  虫明麻衣

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